HACCPの7原則12手順を、現場の言葉で学ぶ
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point/危害要因分析と重要管理点)は、食品の安全を「最終検査ではなく、つくる工程で守る」ための国際的な衛生管理手法です。コーデックス委員会が示す12手順のうち、後半7つが「7原則」と呼ばれ、HACCPプランの核になります。
とはいえ、教科書を読んでも「危害要因分析」「CCP」「許容限界」と専門用語が続き、現場担当者にはなかなか伝わりません。本講座では、各手順を「何のためにやるのか」「現場で何を書けばいいのか」に落とし込んで解説します。
- まず手順1〜5(チーム編成〜フロー確認)の「絵」を3週間でつくる
- 次に手順6〜7(HA・CCP決定)に1〜2カ月かける
- 手順8以降は実際に回しながら数値を詰める
食品衛生法に基づく「HACCPに沿った衛生管理」
2018年の食品衛生法改正により、2021年6月から原則すべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が制度化されました。これは「義務」であり、保健所による立入調査で衛生管理計画・記録の提示を求められます。
基準A・基準Bの違い
事業規模・業種に応じて2つの基準が用意されています。
| 区分 | 基準A(HACCPに基づく衛生管理) | 基準B(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理) |
|---|---|---|
| 対象 | と畜場・大規模製造業など | 小規模事業者(従業員50人未満の製造業、飲食店、販売業など) |
| 求められる文書 | コーデックスHACCPに基づく独自プラン | 業界団体作成の手引書を活用した簡略運用 |
| 運用負荷 | 高(HA・CCP・CL・モニタリング・検証すべて文書化) | 中(一般衛生管理+重点ポイントの記録) |
保健所立入りで必ず確認される3つ
厚生労働省の通知に基づき、保健所監視員が確認するのは次の3点です。
- 衛生管理計画が作成されているか(一般衛生管理+HACCP)
- 計画に基づく実施記録が日々取られているか
- 逸脱時の改善措置が記録され、再発防止につながっているか
- 誰がいつ書いたか分かる(氏名・日付・時刻)
- 後から書き換えた跡が残らない(鉛筆書きは不可、訂正は二重線+押印)
- 異常があったときに何をしたかが分かる(処置欄が空白なら未対応とみなされます)
CCPとOPRPの違いを正しく理解する
HACCPで最もよく出る誤解が「何でもかんでもCCPにしてしまう」ことです。CCPを10個も20個も設定すると、現場が記録に追われ本質的な管理が回らなくなります。コーデックス2020年版(CXC 1-1969 Rev.2020)では、危害要因の管理手段をCCPとOPRPに分けて整理する考え方が明確化されました。
CCP(Critical Control Point/重要管理点)
危害要因を「許容できるレベルまで除去・低減」するために必須の工程です。逸脱した瞬間に製品の安全性が失われるため、リアルタイムでのモニタリングと、逸脱時には製品の隔離・出荷停止判断が求められます。
典型例:
- 加熱殺菌工程の中心温度・時間(病原菌の殺滅)
- 金属検出機(金属異物の排除)
- pH調整による微生物制御
OPRP(Operational Prerequisite Programme/オペレーション前提条件プログラム)
危害発生の可能性を抑える管理手段ですが、CCPほど「逸脱=即不良」ではありません。アレルゲン管理、ライン洗浄、原料受入検査など、失敗すると危害につながる可能性があるけれど、その後の工程でカバーされうるものが該当します。
| 項目 | CCP | OPRP |
|---|---|---|
| 役割 | 危害の除去・許容レベルまで低減 | 危害発生の可能性を低減 |
| 許容限界 | 必須(測定可能な数値) | 運用基準(数値または手順) |
| モニタリング | 連続またはこまめ・リアルタイム | 定期的 |
| 逸脱時の製品処置 | 隔離・再加工・廃棄を含む厳格対応 | 原則として後工程で確認・対応 |
- 「これがないと食中毒が起きる」工程だけをCCPにする
- 洗浄・整理整頓・手洗いは前提条件プログラム(PRP)に位置づける
- 「ヒヤリハットしたから新規CCP」と安易に増やさず、まずOPRPで管理する
業種別・HACCP導入の具体事例
HACCPは業種ごとに「どこをCCPに置くか」「どんな記録を残すか」が大きく変わります。ここでは現場でつまずきやすい3業種について、典型的なCCP設定と記録運用の例を示します(あくまで一般的な参考例であり、貴社の実態に合わせた検証が必要です)。
事例1:惣菜・弁当製造業(中規模・従業員30名)
加熱調理・冷却・盛付・出荷の工程を持つ惣菜製造では、加熱と冷却の2点をCCPに設定するのが一般的です。
- CCP1:加熱工程 中心温度75℃1分以上(ノロウイルス対象なら85〜90℃で90秒以上)。中心温度計を毎ロット使用し、温度・時間を記録。
- CCP2:冷却工程 中心温度を90分以内に10℃以下まで下げる。庫内温度ではなく中心温度の測定が必須。
- OPRP:金属検出機 1日2回テストピース(Fe1.5mm/SUS2.5mm)で感度確認。
- 典型的な失敗 「庫内温度しか測っていない」「冷却時間を測っていない」が保健所指摘の二大論点。
事例2:菓子・ベーカリー製造業(小規模・従業員10名)
小規模菓子製造は基準B(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)に該当することが多く、業界団体の手引書を活用した簡略運用が認められます。
- 重点管理 焼成温度・時間、アレルゲン(小麦・卵・乳・落花生・そば等)の交差汚染防止
- 記録 始業前点検チェックリスト(10項目程度)+焼成記録+アレルゲン切替時の洗浄記録
- 典型的な失敗 アレルゲン表示と原材料表の不整合(仕入先変更時に更新漏れ)
事例3:飲食店(個人経営〜小規模チェーン)
飲食店は基準Bで運用し、業界団体(日本食品衛生協会・各業界団体)の手引書チェックリストをほぼ活用できます。
- 一般衛生管理 手洗い・器具消毒・冷蔵庫温度・廃棄物管理・トイレ清掃の5点を毎日チェック
- 重要管理点 加熱調理(中心温度)/冷蔵保管温度/二次汚染防止(生肉と野菜のまな板分離)
- 典型的な失敗 「冷蔵庫温度を週1回しか測っていない」「手洗いタイミングが曖昧」
- 手引書の文言を機械的に転記すると、自社で実施できない項目が混ざる
- 記録様式は自社の工程・人員に合わせて削る/足すのが正しい運用
- 「書類はあるが現場と違う」状態は、保健所監視員が最も嫌うパターン
HACCP運用でよくある10の失敗パターン
制度化から数年が経ち、保健所立入りや取引先監査でも「形だけのHACCP」が見破られるようになりました。当社が研修先・コンサル先で目にした失敗を10件にまとめます。
- CCPを増やしすぎる:10個以上のCCPを設定し、記録に追われて本来の管理が回らなくなる。CCPは3〜5個が目安。
- 許容限界(CL)が測定できない:「適切に加熱する」など、数値で判定できないCLは無効。必ず温度・時間・pHなどの数値で設定する。
- モニタリング担当者が決まっていない:「誰かが測る」では責任不在。氏名・役職・代行者まで決める。
- 改善措置が「再加熱」だけ:逸脱原因の除去まで踏み込まないと、同じ逸脱が繰り返される。
- 検証を実施していない:記録レビュー・校正・微生物検査が形骸化。年間検証計画を立てて回す。
- フローダイアグラムが古い:設備更新・工程変更後にフロー図が更新されず、現場と書類が乖離。
- 記録の鉛筆書き:書き換え可能な記録は監査で無効と判断される。ボールペンまたは電子記録に。
- 教育記録がない:HACCPチームメンバーや現場担当者への教育記録が残っていない。修了証・受講ログを保管する。
- 外部委託先の管理が抜ける:原材料サプライヤー・物流・倉庫業者の衛生管理状況を確認していない。
- 年1回の見直しをしていない:苦情・自主回収・新商品・法改正があったらHACCPプランを更新する。
- 過去1年で、衛生管理計画を1回でも見直したか
- CCPの逸脱記録がゼロのまま続いていないか(逆に怪しい)
- 新人が入ったときの教育記録があるか
- HACCPチームの議事録が残っているか
- 取引先からの監査チェックリストに即答できる体制か
よくあるご質問
HACCPは小規模な食品事業者にも義務ですか?
CCPとOPRPの違いは何ですか?
教育記録としてHACCP研修の修了証は使えますか?
現場の高齢者やパート社員にも理解できますか?
コーデックス2020年改訂版に対応していますか?
受講人数に上限はありますか?
小規模飲食店でもHACCPの記録は必要ですか?
HACCP研修は何時間受ければよいですか?
HACCPと一般衛生管理(PRP)はどう違いますか?
取引先監査でHACCP体制を証明する書類は何が必要ですか?
料金プラン
HACCP eラーニングは、品質カレッジの契約内容に応じたコースを受講できるプランに含まれます。HACCP単独ではなく、ISO9001・GMP・FSSC22000・5Sなど周辺コースも一緒に学べます。
- HACCPの第1章・第2章をフル視聴できます
- クレジットカード登録不要
- 受講開始まで通常5分