カテゴリ:CAPA運用
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はじめに:「同じような不具合、別の工程でまた出た」が止まらない理由
ある中堅製造業の品質会議で、こんな光景に出会いました。
「先月、A工程で寸法不良が発生しました。原因は治具の摩耗。新しい治具に交換し、是正処置は完了です」
担当者の報告は明快でした。ところが3か月後、今度はB工程で似た寸法不良が発生します。原因はやはり治具の摩耗。会議では「B工程は別ラインだから、A工程の対策とは関係ないと思っていた」という発言が出ました。
CAPA(是正処置・予防処置)の運用で最も多い落とし穴が、この「発生工程だけで対策を閉じる」問題です。是正処置(Corrective Action)は打っても、予防処置(Preventive Action)の柱である水平展開(横展開)が抜け落ちている現場が、想像以上に多いのです。
ISO 9001:2015の10.2項では「類似の不適合が発生する可能性を評価する」ことが明確に要求されています。つまり、1件の不適合を全工程に活かせていない時点で、規格要求に対する不適合状態と言えます。
H2:なぜ横展開は組織に根付かないのか
「うちの工程は違う」という心理的バリア
横展開が進まない最大の理由は、技術的な難しさではなく心理面にあります。
- 「A工程の話だから、B工程の自分には関係ない」
- 「他工程の対策をうちにも適用しろと言われると、仕事が増える」
- 「他人の失敗を自分の工程に持ち込みたくない」
この3つの心理が重なると、せっかく分析した不適合情報が、発生部署のキャビネットの中で眠ったままになります。
報告書フォーマットに「横展開欄」がない
もう一つの構造的な問題が、CAPA報告書のフォーマットです。
多くの企業の不適合報告書を見ると、「発生事象」「原因」「是正処置」「効果確認」の4項目で終わっています。「水平展開先」「展開判断の根拠」「展開対象外とした理由」を記入する欄がないため、書き手が意識しない限り検討されません。
監査で「予防処置が機能していますか?」と聞かれて答えに詰まる現場の多くは、このフォーマット起因の抜け落ちが原因です。
H2:横展開を仕組み化する「5つの問い」
属人的な判断に頼らず、誰が記入しても同じ深さで横展開検討ができるようにするには、報告書に5つの問いを組み込むことが効果的です。
問い1:同じ「材料」を使っている工程はどこか
不適合の原因が材料起因(ロット、サプライヤー、保管条件など)であれば、同じ材料を使う全工程に波及します。
例:射出成形のA工程で樹脂の吸湿による外観不良が発生。同じ樹脂ロットを使うB工程・C工程の保管環境を即日点検し、2工程で同等のリスクを発見。
問い2:同じ「設備・治具・型」を使っている工程はどこか
設備老朽化、治具摩耗、型のメンテナンス不足は、同型設備を持つ全ラインで起こり得ます。
例:加工機Aの軸ベアリング摩耗で寸法不良発生。社内に同型加工機が4台あることが判明し、全機の予防保全周期を3か月短縮。
問い3:同じ「作業方法・手順」を採用している工程はどこか
標準書の不備、手順の曖昧さ、作業者判断に委ねている部分は、同じ手順を使う工程すべてに潜在しています。
例:締付トルクの確認方法が「目視+手感」だった工程で締付不良が発生。同じ手順を採用していた他5工程の標準書を見直し、トルクレンチによる数値管理に統一。
問い4:同じ「作業者・教育プログラム」を経た工程はどこか
教育内容の不足や、経験年数の浅い作業者への配置が原因の場合、同じ教育を受けた作業者がいる工程すべてが対象です。
例:新人作業者の段取りミスで不良発生。同期入社の新人を配置している他3工程でも、段取り手順の再教育とOJT再実施を決定。
問い5:同じ「環境条件」下にある工程はどこか
温度、湿度、振動、粉塵などの環境要因は、同じエリアの全工程に影響します。
例:夏季の高湿度で塗装工程に塗膜不良。同じ塗装ブースを共有する他製品の塗装工程にも除湿機を増設。
この5問を4M+1E(Man・Machine・Material・Method・Environment)に対応させると、漏れなく検討できます。
H2:水平展開マトリクスで「やった・やらない」を可視化する
5つの問いを立てても、判断結果を残さなければ監査時に説明できません。そこで水平展開マトリクスを併用します。
マトリクスの基本構成
| 対象工程 | 材料 | 設備 | 手順 | 教育 | 環境 | 展開判断 | 期限 | 担当 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A工程(発生元) | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 是正処置完了 | 済 | 山田 |
| B工程 | ○ | ○ | − | − | ○ | 同等対策実施 | 7/15 | 鈴木 |
| C工程 | − | ○ | − | − | ○ | 監視強化のみ | 7/30 | 佐藤 |
| D工程 | − | − | − | − | − | 対象外(根拠:材料/設備/手順すべて異なる) | − | − |
マトリクスの3つの効用
- 「対象外」の根拠が残る:監査で「なぜD工程は展開対象外なのか」を聞かれても即答できる
- 進捗が一覧で見える:複数工程の対策進捗を品質会議で追跡できる
- 後任者が引き継げる:担当者異動後も判断履歴が残る
横展開を口頭の「やっておきます」で済ませず、紙(または電子帳票)に落とすことが、組織知化の第一歩です。
H2:横展開を風土にする3つの運用ルール
ルール1:CAPA報告書の承認者を「他工程の責任者」も含める
発生工程の上長だけが承認する仕組みでは、横展開は進みません。月次品質会議で他工程の責任者全員が報告書を確認し、「自工程への展開要否」を発言する場を作ります。
ルール2:横展開の効果を「件数」で見える化する
「不適合1件あたり、何工程に水平展開したか」を月次KPIにします。展開件数がゼロの月が続けば、運用が形骸化しているサインです。
ルール3:横展開で防げた事例を社内共有する
「A工程の対策をB工程に展開したら、3か月後にB工程で同種の不良が出かけて未然防止できた」という事例を品質月報で紹介します。成功体験の共有が、心理的バリアを下げる最大の武器です。
H2:CAPA運用を仕組み化するために — 品質カレッジの活用
CAPAの横展開を「人の意識」だけに頼らず、組織のルーティンに落とし込むには、現場全員が同じ言葉と同じ手順でCAPAを語れる状態を作ることが近道です。
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